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最高裁判所第三小法廷 昭和63年(あ)664号 決定 1989年7月14日

主文

本件上告を棄却する。

当審の未決勾留日数中三二〇日を本刑に算入する。

理由

一  上告趣意に対する判断

弁護人内藤政信の趣意のうち、判例違反をいう点は、地方裁判所の判決又は本件とは事案を異にする高等裁判所の判例を挙げているから適切でなく、その余は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、すべて適法な上告理由に当たらない。また、被告人本人の趣意は、判例違反をいうが、右と同様その挙げる判例が適切でないので、適法な上告理由に当たらない。

二  職権による判断

弁護人の所論は、平安神宮社殿は一体として現住建造物を構成していたわけではなく、被告人が放火により焼燬した本殿、祭具庫、西翼舎等の建物と人が現住していた社務所等の建物とは別個の建造物であったから、本件においては非現住建造物放火罪が成立するにとどまると主張しているので、以下職権によりこの点につき判断する。

原判決及びその支持する第一審判決の認定によると、(1) 平安神宮社殿は、東西両本殿、祝詞殿、内拝殿、外拝殿(大極殿)、東西両翼舎、神楽殿(結婚儀式場)、参集殿(額殿)、齋館、社務所、守衛詰所、神門(応天門)、蒼龍楼、白虎楼等の建物とこれらを接続する東西の各内廻廊、歩廊、外廻廊とから成り、中央の広場を囲むように方形に配置されており、廻廊、歩廊づたいに各建物を一周しうる構造になっていた、(2) 右の各建物は、すべて木造であり、廻廊、歩廊も、その屋根の下地、透壁、柱等に多量の木材が使用されていた、(3) そのため、祭具庫、西翼舎等に放火された場合には、社務所、守衛詰所にも延焼する可能性を否定することができなかった、(4) 外拝殿では一般参拝客の礼拝が行われ、内拝殿では特別参拝客を招じ入れて神職により祭事等が行われていた、(5) 夜間には、権禰宜、出仕の地位にある神職各一名と守衛、ガードマンの各一名の計四名が宿直に当たり、社務所又は守衛詰所で執務をするほか、出仕と守衛が午後八時ころから約一時間にわたり東西両本殿、祝詞殿のある区域以外の社殿の建物等を巡回し、ガードマンも閉門時刻から午後一二時までの間に三回と午前五時ころに右と同様の場所を巡回し、神職とガードマンは社務所、守衛は守衛詰所でそれぞれ就寝することになっていたというのである。

以上の事情に照らすと、右社殿は、その一部に放火されることにより全体に危険が及ぶと考えられる一体の構造であり、また、全体が一体として日夜人の起居に利用されていたものと認められる。そうすると、右社殿は、物理的に見ても、機能的に見ても、その全体が一個の現住建造物であったと認めるのが相当であるから、これと同旨の見解に基づいて現住建造物放火罪の成立を認めた原判決の判断は正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、刑法二一条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 貞家克己 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 坂上壽夫)

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